最終更新:2026年8月24日。本記事は2026年8月23日付の日本経済新聞の報道と、国税庁・中小企業庁・財務省の公表資料に基づきます。「猶予から免除へ」の見直しは現時点で経済産業省が要望する方針が報じられた段階であり、決定ではありません。数値・期限はすべて出典つきで記載しています。
何が報じられたのか——「払うのを待ってあげる」から「払わなくてよい」へ
2026年8月23日、日本経済新聞は、経済産業省が中小企業の事業承継を後押しするため、非上場株式を引き継ぐ後継者の相続税・贈与税を「免除」する方向で、2027年度(令和9年度)の税制改正要望に盛り込む方針だと報じました。免除の対象として想定されているのは、成長投資や賃上げに取り組む企業です。
現行の事業承継税制は、税金を「免除」するのではなく「納税を猶予」する仕組みです。猶予を何十年も続けた先に実質的な免除へたどり着く設計で、そのあいだ後継者は「いつか全額請求されるかもしれない税金」を背負い続けます。報道によれば、経産省はこの税負担減の予見性の低さを問題視し、一定の要件を満たせば税負担そのものを消す形への転換を目指します。具体的な制度設計は、年末にかけて政府・与党内で調整されます。
「要望」は決定ではありません。各府省庁の税制改正要望は毎年8月末に出そろい、年末の与党税制改正大綱で採否が決まります。要望されながら通らなかった例、縮小されて通った例は毎年あります。要望から施行までの流れと「決まったこと」との見分け方は、令和9年度税制改正要望の読み方で詳しく解説しています。
現行制度のおさらい——事業承継税制は「支払いを止めておく」仕組み
事業承継税制(法人版)は、後継者が非上場会社の株式を先代経営者から贈与または相続で引き継いだとき、その株式にかかる贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。2018年(平成30年)に、10年間の時限措置として要件を大幅に緩和した「特例措置」が設けられ、現在はこの特例措置が事実上の主役になっています。
| 項目 | 特例措置(時限) | 一般措置(恒久) |
|---|---|---|
| 対象株式 | 取得した株式の全部 | 発行済株式の3分の2まで |
| 猶予される割合 | 贈与税・相続税とも100% | 贈与税100%・相続税は80% |
| 後継者の人数 | 最大3人 | 1人 |
| 雇用の維持 | 8割を下回っても、理由を報告すれば猶予継続 | 5年平均で8割維持が必要 |
| 事前の計画 | 特例承継計画の提出が必要(2027年9月30日まで) | 不要 |
| 承継の期限 | 2027年12月31日までの贈与・相続 | 期限なし |
猶予された税金が最終的に「免除」へ変わるのは、主に次の場面です。
- 後継者(引き継いだ人)が亡くなったとき——猶予されていた税額は免除されます。
- 次の後継者へ、猶予を引き継ぐ形で株式を贈与したとき——いわゆるバトンタッチの連鎖です。
- 贈与税の猶予中に先代が亡くなったとき——猶予中の贈与税は免除され、株式は相続で取得したものとみなして相続税の対象に切り替わります(手続きにより相続税の猶予へ移行できます)。
つまり現行制度の「実質免除」とは、会社と株式を持ち続け、承継をつないでいけば、結果として払わずに済むという設計です。
自社株にかかる相続税はどのくらい?(単純化した目安)
自社株の相続税評価額が3億円、相続人が子1人、他の財産・債務を考えない単純計算では、
課税対象:3億円 − 基礎控除3,600万円 = 2億6,400万円
相続税額:2億6,400万円 × 45% − 2,700万円 = 約9,180万円
特例措置を使えば、この全額の納税が猶予されます。実際は株式の評価方法や他の財産で大きく変わるため、あくまで目安です。自社株の評価の仕組みは非上場株式の取得と評価を、相続税の基本は相続税の基礎控除と節税対策をご覧ください。
「猶予」の何がつらいのか——免除まで数十年、打ち切りは全額+利子税
猶予割合100%と聞くと万能に見えますが、実務では次の点が「使いにくさ」として指摘されてきました。今回の経産省の問題意識も、ここにあります。
- ゴールが遠い。免除に至る主な出口は「後継者が亡くなる」か「さらに次の世代へ承継する」ときです。30〜40代の後継者にとって、免除は数十年先の話になります。
- 途中で打ち切られると全額+利子税。猶予はあくまで猶予なので、取消事由に当たると猶予税額の全額に利子税を加えて納付します。承継直後の5年間に代表を退く、対象株式を譲渡する、同族で過半数の議決権を失う、資産管理会社に該当する、などが典型です。
- 年に一度の書類を忘れただけでも打ち切り。税務署への継続届出書などの提出を失念すると、それだけで猶予は終了します。
- 会社の売却や事業転換の足かせになる。猶予中に株式を売れば原則打ち切りです(経営環境の変化に応じた減免の特例はありますが、要件があります)。
「数十年にわたって打ち切りリスクを管理し続けられるか」を判断できず、適用をためらう経営者・税理士が少なくない——これが現行制度の予見性の問題です。要件を満たした時点で税負担が確定的に消える「免除」になれば、この不確実性は大きく減ります。
「免除」になると何が変わるのか——報道から読み取れる範囲
報道ベースで整理すると、見直しの方向は次のとおりです。
- 猶予から免除へ。「払うのを待つ」のではなく、一定の要件を満たせば相続税・贈与税の負担をなくす。
- 条件は成長投資・賃上げ。単なる資産の引き継ぎ優遇ではなく、承継後に投資や賃上げへ取り組む企業に絞ることで、政策減税としての説明をつける構図です。
- 時期は2027年度(令和9年度)税制改正。8月末に要望が出そろい、年末の与党税制改正大綱で採否・中身が決まります。
一方で、現時点では次の点がまったく決まっていません。
- 免除の対象企業の範囲(規模・業種・投資や賃上げの水準)
- 免除される税額の範囲(全額か一部か)
- 恒久措置か、特例措置のような時限措置か
- すでに猶予を受けている会社の扱い(新制度へ移行できるのか)
減税要望は財務省との調整で縮小・修正・見送りになることが珍しくありません。相続税・贈与税の免除は「資産家優遇ではないか」という論点と常に隣り合わせで、要件の厳しさがどこに落ち着くかが最大の見どころです。9月以降の報道は「決定」と読み違えないようにしてください。
経営者はいま何をすべきか——「駆け込み」か「待ち」か
悩ましいのは、現行の特例措置が期限切れに向かっていることです。特例承継計画の提出は2027年9月30日まで、承継の実行(贈与・相続)は2027年12月31日までで、この適用期限について政府・与党は税制改正大綱で「今後とも延長を行わない」と明記してきました。つまり、
- 現行の特例措置を使うなら、残された時間は1年4か月あまり。
- 新しい免除型の制度を待つなら、中身も、本当に実現するかも、まだわからない。
という二択に見えます。ただし、スケジュールをよく見ると「年末の大綱を確認してから決める」余地があります。
- 2026年8月末:各府省庁の税制改正要望が出そろう。経産省要望の正式な文言を確認できる。
- 2026年12月中旬:与党税制改正大綱。免除型への転換が採用されるか、要件の骨格がここで判明する。
- 2027年前半:通常国会で税制改正法案を審議・成立。
- 2027年9月30日:特例承継計画の提出期限。大綱を見てからでも間に合う。
- 2027年12月31日:特例措置で承継を実行する期限。
特例承継計画は「提出したら必ず承継しなければならない」ものではありません。提出しておいて使わない選択は可能なので、迷っている場合は、認定経営革新等支援機関(顧問税理士・商工会議所など)に相談のうえ計画だけ先に整えておき、年末の大綱で「現行で駆け込むか、新制度を待つか」を判断するのが現実的です。
なお、個人事業主向けの個人版事業承継税制も並行して存在します(個人事業承継計画の提出は2028年9月30日まで、承継の実行は2028年12月31日まで)。法人成りとの比較検討は法人の税金ガイドもあわせてどうぞ。
今日やること
- 自社株の相続税評価額の概算を顧問税理士に依頼する(金額がわからないと駆け込みも様子見も判断できません)
- 2026年12月中旬の「与党税制改正大綱」をカレンダーに入れ、事業承継税制の扱いを確認すると決めておく
- 現行の特例措置を使う可能性が少しでもあるなら、特例承継計画の作成を認定支援機関に相談する(提出だけなら義務は生じません)
よくある質問
相続税・贈与税の「免除」はもう決まったのですか?
決まっていません。経済産業省が2027年度(令和9年度)の税制改正要望に盛り込む方針だと報じられた段階で、採否と中身は2026年末の与党税制改正大綱、その後の国会での法案成立を経て確定します。要望のまま消える案や、縮小されて実現する案も毎年あります。
いまの特例措置を使う場合の期限はいつまでですか?
特例承継計画を2027年9月30日までに都道府県へ提出し、かつ2027年12月31日までに贈与または相続で株式を承継する必要があります。適用期限(2027年12月31日)は税制改正大綱で「今後とも延長を行わない」とされてきたため、延長を前提にしない方が安全です。
納税猶予が打ち切られるのはどんなときですか?
承継後5年以内に代表者を退任した場合、対象株式を譲渡した場合、同族関係者で議決権の過半数を失った場合、資産管理会社に該当した場合などです。また、税務署への継続届出書の提出を忘れただけでも打ち切られ、猶予されていた税額の全額に利子税を加えて納付することになります。
新しい免除型の制度を待った方が得ですか?
現時点では判断できません。免除の対象・要件(成長投資や賃上げの水準)・時期が未確定だからです。先代経営者が高齢である、株価の評価がいまは低いなど、承継を急ぐ事情がある会社は現行の特例措置の活用を優先的に検討し、時間に余裕がある会社は年末の大綱を確認してから動く、が基本の整理になります。個別の判断は必ず税理士など専門家にご相談ください。
参考リンク(出典)
本記事は一般的な情報提供であり、特定の手続き・節税を勧めるものではありません。「免除」への見直しは要望段階の報道に基づく記述であり、今後変更・見送りの可能性があります。個別の税務判断は税務署または税理士など専門家にご確認ください。



