ドイツの犬税は年約2万円・税収770億円|日本も1982年まで課税・泉佐野市は断念

直近5人が訪問しました
カテゴリ:制度・ニュース

連載世界のユニーク税制第20回一覧を見る →

シリーズ:世界のユニーク税制・社会保険 #20

ドイツで犬を飼うと、自治体に「犬税」(フンデシュトイアー)を納めます。ベルリンなら1頭目が年120ユーロ(約2.2万円)、2頭目からは180ユーロと「増えるほど高くなる」設計で、2024年のドイツ全体の犬税収入は約4億3,000万ユーロ(約770億円)と過去最高を更新しました。一方、隣のオランダでは犬税を廃止する自治体が毎年増えています。そして実は日本にも1982年まで犬税があり、2012年には大阪府泉佐野市が復活を検討して断念しました。「なぜ犬にだけ税金なのか」。200年続く犬税の仕組みと論点を、一次情報で整理します。

仕組み:頭数で決まる自治体の税金。2頭目から高くなる

ドイツの犬税は市町村が課税する地方税で、税額は自治体が条例で決めます。犬を飼い始めたら(引っ越してきたら)自治体に登録し、飼っている頭数に応じて年額を納める仕組みです。大都市の例を見てみます。

都市1頭目(年額)2頭目以降(年額)危険犬種(闘犬種)
ベルリン120ユーロ(約2.2万円)180ユーロ(約3.2万円)割増なし
ミュンヘン100ユーロ(約1.8万円)100ユーロ(頭数によらず同額)800ユーロ(約14.4万円)=通常の8倍
  • ベルリンは2頭目から1.5倍。多頭飼いほど1頭あたりの負担が重くなる「頭数を増やしすぎない」方向の設計です。取得や転入から1か月以内の登録が義務で、盲導犬など補助犬は免除されます
  • ミュンヘンは危険犬種に8倍の税額を課します。一方で保護施設から引き取った犬や、飼い主の訓練資格がある場合の免除・軽減もあります。逆にベルリンの犬税法には闘犬種の割増規定がありません。同じ国でも自治体ごとに思想が違うのがこの税の面白いところです
  • 猫や小鳥には課税されません。課税対象は原則「犬」だけです(理由は次の章で)

なぜ生まれたか:19世紀の「贅沢税」と狂犬病対策

犬税の起源は19世紀初頭のドイツにさかのぼります。1807年にオッフェンバッハ市が戦費調達のために導入したのが最初期の例とされ、プロイセンでは1810年に「贅沢税」として犬の飼育に課税する勅令が出ました。「番犬や猟犬のように働かない犬を飼えるのは、余裕のある証拠」という発想です。

もうひとつの狙いが狂犬病対策でした。ワクチンのない時代、狂犬病は人にうつれば助からない病気で、対策は「犬の頭数を管理し、野良犬を減らす」しかありませんでした。課税とセットで犬を登録させれば、誰がどこで何頭飼っているかを行政が把握できます。犬税は「税収」と「登録制度」を兼ねた仕組みとして広がったのです。

  • 猫に課税されなかったのは、当時の猫がネズミ捕りの「実用動物」で贅沢品とみなされなかったこと、放し飼いの猫は所有者の特定が難しいことが理由とされています
  • 現代のドイツでは狂犬病対策としての意味は薄れ、「ふん害や咬傷事故など、犬の飼育が地域にかける負担への対価」「無計画な飼育の抑制」が課税の説明になっています
  • ただしドイツの犬税は使い道の決まっていない普通税で、税収がそのまま犬のふん清掃やドッグランに使われるわけではありません。ここは後で見る「廃止論」の論点にもなります

結果:ドイツは税収770億円で過去最高。オランダは廃止ラッシュ

  • ドイツ連邦統計局によると、2024年の犬税収入は約4億3,000万ユーロ(約770億円)で過去最高。前年比2.2%増で、10年前(2014年・約3億900万ユーロ)から39.3%増えました。統計局は「税率を上げた自治体もあるため、税収増がそのまま犬の増加を意味するわけではない」と注記しています
  • 一方、犬税がある隣国オランダでは廃止する自治体が毎年増えています。犬税を課す自治体は2025年時点で342自治体中113。2026年には約100自治体(全体の約3割)まで減り、2027年の廃止を目指して検討を決めた自治体もあります。犬税収入は2017年の約6,000万ユーロから2024年には約3,000万ユーロへと、7年で半減しました
  • オランダで廃止が進む理由は「猫は無税で犬だけ課税は不公平」「税収が犬のための施策に使われていない」「徴収コストがかさむ」といったもので、導入当時の目的(狂犬病対策・野良犬対策)が役割を終えた、という判断です
  • つまり欧州でも「維持して税収が伸びるドイツ」と「役割を終えたとして畳むオランダ」に分かれており、犬税が良い税か古い税かは、いまも答えの出ていない論点です

日本との比較:1982年まで日本にも犬税があった

「犬に税金なんて外国の話」と思われがちですが、日本にも犬税がありました。戦後、市町村が独自に課税でき、ピークの1955年(昭和30年)ごろには約2,700の自治体が犬税を課していたとされます。その後、徴収の手間に対して税収が小さいことなどから廃止が続き、1982年3月に長野県四賀村(現・松本市)が廃止したのを最後に、日本から犬税は消えました

復活の動きが一度だけありました。大阪府泉佐野市です。放置ふん対策の費用をまかなう目的で、市は2012年に犬税(飼い犬1頭あたり年2,000円の案)の導入検討を表明し、有識者による検討委員会が2014年7月30日に市長へ「導入は困難」とする検討結果を報告しました。理由は2つです。第一に、市の調査で登録されている飼い犬5,232頭に対し、実際の飼い犬は推計8,911頭(登録率58.7%)と判明。約4割が未登録の状態で登録犬だけに課税すれば、きちんと登録している飼い主だけが払う「正直者が損をする税」になってしまいます。第二に、賄いたい対策経費が年約1,000万円なのに対し、徴税には職員人件費などで年約1,600万円+システム構築費約1,000万円かかる試算で、集めるお金より集めるコストのほうが高いという本末転倒が避けられませんでした。

犬税の成否は「登録率」で決まる——泉佐野市の結論は、犬税という制度の急所を突いています。ドイツの犬税が200年続いているのは、登録制度と一体で運用され「無登録の犬」を許さない仕組みが先にあるからです。税だけ真似ても、登録が徹底されていなければ不公平な税になります。

なお、いま日本の自治体が独自に課税する仕組みとしては宿泊税などの法定外税があり、犬税を再導入するならこの枠組みになります(泉佐野市の案も、使い道をふん対策に限定した法定外目的税でした)。自治体独自の課税では、京都市が2030年度から始める空き家税(非居住住宅利活用促進税)が近年の代表例です。土地や家屋にかかる固定資産税と同じく、「地域の負担に地域で課税する」地方税の一形態といえます。

日本人に関係するケース:いま犬を飼うとかかる「公的なお金」

日本に犬税はありませんが、犬を飼うと制度上のお金はかかります。整理しておきます。

項目金額・税率備考
犬の登録手数料3,000円(標準額)狂犬病予防法による義務。生涯1回・市区町村に登録
狂犬病予防注射済票550円(標準額)+注射代毎年1回の接種が義務。金額は自治体で異なる場合あり
ペットフードの消費税10%「人の食用」ではないため軽減税率(8%)の対象外
ペット保険の保険料・治療費所得控除の対象外生命保険料控除・医療費控除はいずれも人が対象
  • 登録と毎年の予防注射は「税」ではなく手数料と義務ですが、犬税時代の「登録して頭数を把握する」機能は、この狂犬病予防法の登録制度が引き継いでいます。日本は1950年の狂犬病予防法の施行からわずか7年で狂犬病を撲滅し、以来、国内での発生はありません(海外で感染した輸入症例を除く)。年1回の注射が「もう発生していないのに」続いているのは、この登録・接種の網を緩めないためです
  • ペットフードが消費税10%なのは、軽減税率の対象が食品表示法上の「人の飲用・食用」に限られるためです。同じ「食べ物」でも人とペットで税率が違う仕組みは、食料品の消費税をめぐる議論を考えるときの好例です
  • ドイツやスイスなど犬税のある国に駐在・移住して犬を連れて行く場合は、現地で納税義務が生じます。ベルリンなら転入から1か月以内に登録が必要です。赴任前に、赴任先の自治体の犬税の額と登録期限を確認しておきましょう
  • 逆に旅行で犬税のある国を訪れても、課税されるのは現地で犬を「飼育する」人なので、旅行者には関係ありません

今日やること

今日やること

  1. 犬を飼っている人は、市区町村への登録(鑑札)と今年度の狂犬病予防注射済票がそろっているか確認する(登録・接種は法律上の義務です)
  2. フード・保険・医療費などペットの年間支出を書き出す(フードは消費税10%、保険料・治療費は控除対象外。家計として把握しておく)
  3. 海外赴任・移住の予定がある人は、赴任先の自治体の犬税の有無・年額・登録期限を「持っていく手続きリスト」に追加する

よくある質問

Q. ドイツの犬税はいくらですか?

A. 自治体ごとに条例で決まります。ベルリンは1頭目が年120ユーロ(約2.2万円)・2頭目からは各180ユーロ、ミュンヘンは1頭あたり年100ユーロで、危険犬種(闘犬種)は800ユーロです。盲導犬などの免除や、保護犬の減免を設ける自治体もあります。

Q. なぜ犬だけに課税して、猫には課税しないのですか?

A. 起源が19世紀の「贅沢税」と狂犬病対策にあるためです。働かない犬を飼うのは贅沢とされた一方、猫はネズミ捕りの実用動物で、放し飼いのため所有者の特定も困難でした。現代では「犬だけ課税は不公平」という批判が、オランダなどで犬税廃止論の根拠の一つになっています。

Q. 日本に犬税はありますか?昔はあったのですか?

A. 現在はありません。かつては多くの市町村が犬税を課しており、ピークの1955年ごろには約2,700自治体にのぼったとされますが、1982年3月に長野県四賀村(現・松本市)が廃止したのを最後に消滅しました。2012年に大阪府泉佐野市が放置ふん対策の財源として復活を検討しましたが、飼い犬の約4割が未登録で公平に課税できないこと、徴税コストが対策経費を上回る試算だったことから2014年に見送られました。

Q. 日本で犬を飼うと、税金や公的な費用はかかりますか?

A. 犬税はありませんが、狂犬病予防法により市区町村への登録(手数料の標準額3,000円・生涯1回)と毎年の狂犬病予防注射(注射済票の標準額550円+注射代)が義務です。またペットフードは軽減税率の対象外で消費税10%、ペット保険の保険料やペットの治療費は所得控除の対象になりません。

この記事は役に立ちましたか?

「はい」が多い記事から、優先的に内容を更新・深掘りしていきます。

公開日:2026年08月31日 / 執筆:みんなの税金 編集部

この記事は、出典の明記と本ページへのリンクがあれば、ニュースメディア・ブログ・生成AIの回答などで自由に引用・転載いただけます(事前連絡は不要)。詳しくは転載・引用についてをご覧ください。

本記事は税制・各種制度に関する一般的な情報提供を目的としたもので、税務上の助言ではありません。記載内容は公開時点の情報に基づき正確性に努めていますが、制度は改正される場合があります。実際のお手続き・個別のご判断は、国税庁・お住まいの税務署・税理士等の専門家にご確認ください。運営者情報・免責事項