税務署から電話がかかってきて、「申告書の内容を確認したいので、必要なら修正申告書を出してください」と言われた。この電話は税務調査なのでしょうか。答えは「調査のこともあるし、調査ではないこともある」です。そしてどちらなのかで、あとから払う加算税がゼロになったり十数万円になったりします。同じ電話、同じ修正申告なのに、です。しかも国税庁は「担当者は具体的な手続に入る前に、どちらに当たるのかを明示することとしています」と公式に書いています。つまり、聞いていい。このシリーズでは、この電話の話も扱います。
その場面
平日の昼下がり、事業用の携帯に知らない固定電話番号から着信があった。出ると税務署の名前を名乗り、担当者の氏名と部署を告げたうえで、こう続いた。
「昨年分の確定申告について、いくつか確認したい点があります。売上の計上時期についてお伺いしたいのですが、お手元の資料を見ていただいて、もし誤りがあるようでしたら修正申告書のご提出をお願いできますか」
口調は穏やかで、日時を決めて訪問する話も出なかった。電話を切ってから帳簿を見直したところ、確かに期ズレの計上漏れが見つかった。言われたとおり修正申告書を出すべきか。それとも、これは「調査」が始まったということなのか。
この形の電話は、税務署からの接触として最も件数が多い型です。実際、国税庁の統計では所得税の「簡易な接触」(電話や文書による連絡)が令和6事務年度に68万9千件あり、前事務年度の55万8千件から23%増えています。同じ年の実地調査は4万7千件ですから、家に来る調査より15倍多いのがこの接触です。
法令ではこうなっている
国税庁は「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」の問2で、まさにこの場面を扱っています。しかもこの問2は、2026年7月に改訂されたばかりです。
調査とは、特定の納税者の課税標準等または税額等を認定する目的で、質問検査等を行い、申告内容を確認するものです。
これとは別に、税務当局は行政指導の一環として、申告書に計算誤り・転記誤り・記載漏れ・法令の適用誤りなどがあるのではないかと思われる場合に、納税者に自発的な見直しを要請し、必要に応じて修正申告書の自発的な提出を要請することがあります。
つまり、電話で修正申告を促されたからといって、それが自動的に「調査」になるわけではありません。行政指導という、調査ではない接触の類型が制度上あります。
そして、ここが金額に直結します。国税庁の回答をそのまま引きます。
「このような行政指導に基づき、納税者の方が自主的に修正申告書を提出された場合には、延滞税は納付していただく場合がありますが、過少申告加算税は賦課されません(当初申告が期限後申告の場合は、無申告加算税が原則5%賦課されます。)。」
「なお、税務署の担当者は、納税者の方に調査又は行政指導を行う際には、具体的な手続に入る前に、いずれに当たるのかを納税者の方に明示することとしています。」
判定
聞くのは失礼でも非協力的でもありません。国税庁自身が「具体的な手続に入る前に、いずれに当たるのかを明示することとしています」と公表しているとおり、本来は聞かなくても告げられるはずのものです。告げられなかったなら、確認するのが正しい手順です。
根拠:国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問2
行政指導なら、自主的に出すことで過少申告加算税がかかりません。急ぐ意味があります。ただし調査の事前通知だった場合は話が別で、内容を確かめないまま出すと、本来は争えたはずの論点まで自分で確定させてしまいます。どちらなのかを確認してから動いてください。
行政指導の段階で自主的に是正すれば加算税がかからないのに、放置して調査に移行すると加算税が発生します。「電話を無視していれば有耶無耶になる」は、いちばん高くつく選択です。
金額はこう変わる
期限内に確定申告を済ませていた人が、あとから追加で納める所得税が100万円出たとします(当初の申告納税額は30万円と仮定)。同じ100万円でも、どの段階で修正申告を出したかで加算税が変わります。
自主的に修正申告0円
更正を予知する前に修正申告7万5,000円
修正申告/更正12万5,000円
過少申告加算税の計算:事前通知後・予知前は5%(当初の申告納税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)。調査後は10%(同・超過部分は15%)。この例では基準額が50万円なので、50万円までと超過50万円に分けて計算しています。
| いつ出したか | 過少申告加算税 当初が期限内申告 | 無申告加算税 当初が期限後申告・無申告 |
|---|---|---|
| 行政指導を受けて自主的に | かからない | 原則5% |
| 事前通知の前に自主的に | かからない | 5% |
| 事前通知の後、更正・決定を予知する前 | 5% 超過部分10% | 50万円まで10%/50万円超300万円まで15%/300万円超25% |
| 調査を受けた後(予知後)・更正・決定 | 10% 超過部分15% | 50万円まで15%/50万円超300万円まで20%/300万円超30% |
無申告加算税の300万円超の区分と、50万円超300万円までの区分は、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するもの(令和5年分以降)に適用されます。
令和5年分以降について、調査で帳簿の提示・提出を求められたのに応じなかった場合や、帳簿への売上金額の記載が本来記載すべき金額の2分の1未満だった場合は、加算税に10%が上乗せされます(3分の2未満なら5%)。また無申告については、前年・前々年にも無申告加算税や重加算税を課されている場合、さらに10%が加算されます。「帳簿がない」「売上を全部は書いていない」という状態は、それ自体が加算税を重くします。
加算税がゼロでも、本来の納期限から遅れて納める以上、延滞税は別に発生します。2026年(令和8年)中の割合は、納期限の翌日から2か月以内が年2.8%、2か月を経過した日以後が年9.1%です。早く納めるほど小さくなるので、修正申告と納付はできるだけ間を空けないでください。
電話で確認する順番
実際にかかってきたときの手順です。慌てて答えないことが、いちばん効きます。
- 相手を特定する。税務署名・部署・氏名・連絡先を控えます。そのうえで、相手が伝えた番号ではなく自分で調べた税務署の代表番号にかけ直して在籍を確認してください。税務署をかたる詐欺があるためで、見分け方は国税職員の不祥事と納税者の自衛にまとめています。
- 「これは調査でしょうか、行政指導でしょうか」と聞く。本来は告げられるものです。答えを控えておきます。
- 調査だと言われたら、事前通知の内容を書き取る。調査の対象になる税目・課税期間・目的・開始日時・場所などが通知されます(国税通則法74条の9)。第2回で詳しく扱います。
- 行政指導だと言われたら、何をどう見直してほしいのかを具体的に聞く。「売上の計上時期」「経費の内容」など、対象が絞られているはずです。
- その場で結論を出さない。「帳簿を確認して折り返します」と言って構いません。電話口で「はい、間違っていました」と認める必要はありません。
行政指導だと言われたら
帳簿を確認し、誤りがあればできるだけ早く自主的に修正申告書を提出します。過少申告加算税がかからないうちに出すのが最も有利です。誤りがないと判断したなら、その根拠を整理して回答してください。指導に従う法的な義務はありませんが、放置すると調査に移行し得ます。
調査の事前通知だと言われたら
提出を急ぐ理由はもうありません。事前通知の内容を正確に記録し、日程の調整を申し出るかどうかを検討します。通知された税目・課税期間の範囲を把握しないまま修正申告を出すと、争う余地を自分で閉じることになります。
ここを取り違えやすい
| よくある理解 | 実際 |
|---|---|
| 「電話で修正申告を求められた=税務調査が始まった」 | 行政指導のこともあります。制度上、調査とは別の類型です |
| 「行政指導なら何も払わなくていい」 | 本税と延滞税はかかります。かからないのは過少申告加算税です |
| 「無申告でも行政指導なら加算税ゼロ」 | 当初が期限後申告の場合は無申告加算税が原則5%かかります |
| 「調査だと言われたら、もう終わり」 | 事前通知の後でも、更正を予知する前に修正申告すれば5%で済みます。何もしないより有利です |
| 「どちらか聞くと心証が悪くなる」 | 国税庁が明示することとしている事項です。確認は正当な手順です |
なお、この電話がそもそも本物かどうかは別の問題です。国税庁はSMSにURLを記載した案内を送らず、納付を求める連絡をSMS・メール・LINEで行うこともありません。電話で口座番号や暗証番号を聞いたり、ATMの操作を指示したりすることもありません。長く申告をしていない状態から立て直す手順は無申告からの復帰に、調査に選ばれる仕組みは税務調査のリアルにまとめています。
今日やること
- スマホの連絡先に、自分の所轄税務署の代表番号を登録しておく。かかってきてから調べると、相手の言う番号にかけ直してしまいがちです。国税庁のサイトで住所から所轄署を調べられます。
- 「調査ですか、行政指導ですか」という一文をメモに残す。電話中に思い出せるかどうかで、加算税がゼロか十数万円かが変わります。これだけ覚えておけば十分です。
- 直近の申告について、売上の計上時期を1か所だけ確かめる。期ズレは指摘の定番で、しかも自分で見つければ加算税なしで直せます。12月と1月をまたぐ請求・入金を見てください。
ほかのアクションは手取りアップ・アクションリストへ。
よくある質問
Q. 税務署から電話で修正申告を求められました。これは税務調査ですか。
A. 調査のこともあれば、行政指導のこともあります。国税庁は、申告書に計算誤り・転記誤り・記載漏れ・法令の適用誤りなどがあると思われる場合に、行政指導として自発的な見直しと修正申告書の自発的な提出を要請することがあると説明しています。担当者は具体的な手続に入る前にどちらに当たるのかを明示することとされているので、告げられなければ確認してください。
Q. 行政指導で修正申告をすると、加算税はかかりませんか。
A. 行政指導に基づいて自主的に修正申告書を提出した場合、過少申告加算税は賦課されません。ただし延滞税は納付が必要になる場合があり、当初の申告が期限後申告だった場合は無申告加算税が原則5%かかります。加算税がゼロになるのは過少申告加算税の部分だけ、と理解してください。
Q. 「調査ですか」と聞くと、かえって疑われませんか。
A. 国税庁が「調査又は行政指導を行う際には、具体的な手続に入る前に、いずれに当たるのかを納税者の方に明示することとしています」と公表している事項です。本来は聞かなくても告げられるもので、確認することは正当な手順です。調査であれば、その後に事前通知の内容も説明されます。
Q. 調査の事前通知を受けた後に修正申告しても意味はありますか。
A. あります。事前通知の後でも、調査による更正を予知する前に修正申告をすれば、過少申告加算税は5%(新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)で済みます。調査を受けた後に修正申告した場合は10%(同・超過部分は15%)なので、早く動くほど負担は軽くなります。
Q. 帳簿がない、または売上を一部しか記帳していない場合はどうなりますか。
A. 令和5年分以降について、調査で帳簿の提示・提出を求められたのに応じなかった場合や、帳簿への売上金額の記載が本来記載すべき金額の2分の1未満だった場合は、加算税に10%が上乗せされます(3分の2未満なら5%)。記帳と保存の状態そのものが税額に影響するため、まず帳簿を整えることが最優先になります。
Q. 電話を無視するとどうなりますか。
A. 行政指導の段階で自主的に是正すれば過少申告加算税はかかりませんが、放置して調査に移行し、調査を受けた後に修正申告することになれば10%(超過部分15%)が課されます。延滞税も日数に応じて増えます。連絡を無視することに有利な点はありません。ただし相手が本物の税務署かどうかは、自分で調べた代表番号にかけ直して必ず確認してください。
参考リンク(出典)
本記事の手続・税率の説明は、国税庁および財務省の公表資料で確認しています。事例は複数の証言に共通する展開を匿名で再構成したもので、特定の個人・事案を指すものではありません。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。加算税の適用や修正申告の要否は個別の事実関係によって変わります。実際の対応は税務署または税理士にご相談ください。



