アメリカで10億ドル(約1,500億円)の宝くじに当たると、手取りは3億ドル前後まで減ります。連邦税は最大37%、そこにニューヨーク州なら10.9%の州税が乗るからです。一方、日本の年末ジャンボは1等・前後賞合わせて10億円が当たっても税金ゼロ・確定申告も不要。当せん金付証票法という法律が「所得税を課さない」と明記しているためです。ではなぜ日本は非課税でいられるのか——答えは「買った瞬間に約4割を先に取っている」構造にあります。世界の宝くじ課税を比較しながら、日本の「非課税なのに税金がかかる」落とし穴(共同購入の分配=贈与税)まで、一次情報で整理します。
仕組み:世界の宝くじ課税は「当せん者から取る」か「くじから取る」か
宝くじの税金は国によって正反対です。大きく分けると、当せん者から取る国と、くじの売上から先に取って当せん金は非課税にする国の2タイプがあります。
| 国・地域 | 当せん金への課税 | 仕組み |
|---|---|---|
| 日本 | 非課税(所得税・住民税なし) | 当せん金付証票法13条。販売額の約36%を収益金として自治体が先に確保 |
| アメリカ | 課税:連邦税最大37%+州税 | 5,000ドル(約75万円)超は連邦24%を源泉徴収。州税はニューヨーク州10.9%、カリフォルニア州などはゼロ |
| イギリス | 非課税 | 国営宝くじの掛け金に12%の宝くじ税。事業者が納付 |
| ドイツ | 非課税 | くじ代金に約20%の宝くじ税。事業者が納付 |
| フランス | 非課税 | 当せん金への所得税なし |
| スペイン | 一部課税 | 4万ユーロ(約720万円)を超える部分だけに20% |
| 台湾 | 課税 | 宝くじもレシートくじも、5,000台湾ドル(約2.4万円)超は20%を源泉徴収 |
- 欧州は「非課税」の国が目立ちますが、タダで見逃しているわけではありません。イギリスは掛け金の12%・ドイツはくじ代金の約20%を宝くじ税として事業者から徴収しており、買った時点で税金は済んでいます
- スペインは有名なクリスマス宝くじ「エル・ゴルド」の国ですが、2013年から高額当せんに課税を導入。現在は4万ユーロまで非課税・超えた部分に一律20%という折衷型です
- 台湾はレシートがそのまま宝くじになる「統一発票」で知られますが、当せん金への課税は日本と逆で、5,000台湾ドルを超えると20%源泉徴収されます
アメリカ:源泉24%はまだ「頭金」、最終的に最大37%+州税
当せん者課税のいちばん徹底した例がアメリカです。宝くじの当せん金は給与と同じ「課税所得」で、確定申告で他の所得と合算されます。
- 受取時:5,000ドル超は連邦24%を源泉徴収。支払調書(W-2G)が税務当局に送られます
- 確定申告:累進税率で精算。巨額当せんはほぼ全額が最高税率37%(2026年は独身で課税所得約64万ドル超)の帯に入るため、源泉された24%との差の約13%を追加で納付します
- 州税が上乗せ。ニューヨーク州は10.9%(ニューヨーク市在住ならさらに約3.9%の市税)。一方、カリフォルニア・フロリダ・テキサスなどの州は宝くじ当せん金に州税を課しません。どこで買ったかで手取りが数十億円変わる国です
さらに受け取り方も2択です。パワーボールなどの大型宝くじは、年金受取(29年かけて30回・毎回5%ずつ増額)か一括受取を選びます。一括を選ぶと受取額は広告のジャックポット表示額の半分程度まで下がります。
概算例:表示10億ドルのジャックポット(一括受取・ニューヨーク州・独身)
- 一括受取の現金額:表示額の半分程度 → 約5億ドル
- 連邦税(最大37%):約▲1.85億ドル(うち24%は受取時に源泉済み)
- ニューヨーク州税(10.9%):約▲0.55億ドル
- 手取り:約2.6億ドル(約390億円)=表示額の3割弱
※税率・控除を単純化した概算です。日本なら10億円の当せん金はそのまま10億円受け取れます。
なぜ日本は非課税か:買った瞬間に「先に取っている」
日本の宝くじが非課税なのは、太っ腹だからではありません。宝くじの発売元は全国の都道府県と20の指定都市で、当せん金付証票法にもとづき総務大臣の許可を受けて発売しています。つまり売っているのが最初から自治体なのです。
令和6年度の宝くじ販売実績額は7,598億円。うち当せん金に戻るのは46.5%(3,529億円)で、36.2%(2,750億円)は収益金として発売元の自治体に納められ、高齢者福祉・子育て支援・防災・公園整備などの公共事業等に使われています。当せん者に課税する代わりに、販売段階で約4割を公共のために確保する——これが「非課税」の正体です。
- この「くじの段階で取る」発想は、掛け金に12%課税するイギリス、くじ代金に約20%課税するドイツと同じ系統です。取るタイミングが違うだけで、どの国も宝くじからは必ず税金や公共収入を得ています
- 裏を返すと、日本の宝くじの還元率(買った金額のうち当せん金に戻る割合)は46.5%。公営競技(約75%)などと比べても低く、「非課税だからお得」とは限りません。期待値で考える人には向かない商品です
- 当せん金付証票法13条の条文は「当せん金付証票の当せん金品については、所得税を課さない」の一文だけ。ここが次の落とし穴につながります
日本との比較で見える落とし穴:「非課税」なのに税金がかかる3つのケース
非課税なのは「当せん者本人が当せん金を受け取る」ところまでです。その後の動かし方しだいで、別の税金がかかります。
| ケース | かかる税金 |
|---|---|
| 代表者が受け取った当せん金を、後から共同購入の仲間や家族に分配した | 受け取った人に贈与税(年110万円の基礎控除超) |
| 当せん金を原資に、家族へ住宅資金や車を買ってあげた・借金を肩代わりした | 同じく贈与税の対象 |
| 当せん金を使い切らずに亡くなった | 残額は相続税の課税対象 |
法律が外しているのは所得税だけで、贈与税・相続税の非課税はどこにも書かれていません。国税庁のタックスアンサーも、個人から財産をもらえば原則として贈与税の対象になるとしています。
概算例:3億円当せん後、家族1人に1億円を分けた場合(一般税率)
- 1億円 − 基礎控除110万円 = 9,890万円
- 9,890万円 × 55% − 400万円 = 贈与税 約5,040万円
※渡した1億円の約半分が税金になります。贈与税の基礎控除と税率は贈与税の非課税枠110万円の記事で詳しく解説しています。
共同購入で当せん金を非課税のまま分けるには、「分配」ではなく「全員がそれぞれ当せん金を受け取る」形にします。
- 買う前に記録を作る:誰がいくら出したか、メモや送金履歴を残す(口約束だけでは後から証明できません)
- 受取時は共同購入者全員で銀行窓口へ行く:それぞれの取り分を各自の口座で受け取り、銀行発行の当せん証明書を人数分もらう
- 宝くじ公式サイトの共同購入機能を使う:ネット購入なら、当せん金が購入口数に応じて参加者それぞれに自動で支払われます
BIGは非課税・競馬は課税:同じ「くじ」でも法律しだい
日本国内でも、くじや賭けの種類によって扱いはバラバラです。非課税になるのは「非課税と書いた特別法があるもの」だけです。
| 種類 | 当せん金・払戻金の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 宝くじ(ジャンボ・ロト・ナンバーズ等) | 非課税 | 当せん金付証票法13条 |
| スポーツくじ(BIG・toto・WINNER) | 非課税 | スポーツ振興投票の実施等に関する法律16条 |
| 競馬・競輪・ボートレース・オートレース | 課税:原則一時所得(年50万円の特別控除あり) | 非課税の特別法がなく、所得税法の原則どおり |
| 海外のカジノ・海外の宝くじ | 課税:原則一時所得 | 日本の非課税規定の対象外 |
BIGで6億円が当たっても税金ゼロなのに、競馬で100万円の万馬券を取ると申告が必要になり得る——理由は制度の性格の違いです。宝くじとスポーツくじは収益が自治体やスポーツ振興に回る「公共のためのくじ」として設計され、販売段階で公共側の取り分が確保されているため、当せん者への課税を重ねない建て付けになっています。競馬などの払戻金の申告ルールはギャンブルの税金の記事で詳しく解説しています。
日本人に関係するケース:海外のくじは「非課税」が通用しない
- 台湾旅行のレシートくじ:コンビニのレシートで参加できる統一発票くじは旅行者も当せん対象ですが、5,000台湾ドル超の賞金には現地で20%が源泉徴収されます。詳しくは台湾のレシートくじの記事へ
- アメリカ旅行中に宝くじを買った場合:米国非居住者の当せん金には原則30%の連邦源泉徴収がかかるとされ、州税が加わることもあります。さらに日本の居住者は全世界の所得に日本の所得税がかかるため、海外の宝くじの当せん金は日本では非課税にならず、原則一時所得として課税対象です(当せん金付証票法の非課税は日本の宝くじだけ)
- 日本国内から海外宝くじを買うのは違法:日本国内での海外宝くじの発売・取次ぎ・授受は刑法187条(富くじ罪)で禁止されており、ネットや郵送で購入を申し込む行為自体が違法になります。「海外宝くじに当選しました」というダイレクトメールは当選商法の詐欺として消費生活センターが繰り返し注意喚起しています
今日やること
今日やること
- 家族や職場で宝くじを共同購入しているなら、誰がいくら出したかの記録(メモ・送金履歴)を今日作る
- 高額当せん時の受け取り方を確認しておく:分配ではなく、共同購入者全員で銀行窓口に行って各自の口座で受け取る(またはネット購入なら公式サイトの共同購入機能を使う)
- 当せん金から家族へ援助する予定があるなら、年110万円の基礎控除と贈与税率を贈与税の記事で確認する
よくある質問
Q. 宝くじが当たったら確定申告は必要ですか?
A. 不要です。日本の宝くじの当せん金は当せん金付証票法13条で所得税が非課税とされ、所得ではないため住民税もかかりません。ただし高額当せんの場合、後日の住宅購入などで資金の出どころを説明できるよう、受取時に銀行で「宝くじ当せん証明書」を発行してもらっておくと安心です。
Q. 家族と共同で買った宝くじの当せん金を分けたら贈与税がかかりますか?
A. 代表者がいったん全額を受け取り、後から現金で分配すると、受け取った人に贈与税がかかり得ます(年110万円の基礎控除超の部分)。共同購入者全員で銀行窓口に行き、それぞれの取り分を各自の口座で受け取れば、各自の当せん金として非課税のまま分けられます。宝くじ公式サイトの共同購入機能なら自動で各自に支払われます。
Q. アメリカで宝くじを買って当たったら、日本でも税金がかかりますか?
A. まず米国側で課税されます(非居住者の当せん金は原則30%の連邦源泉徴収+州による州税)。さらに日本の居住者は海外の所得にも日本の所得税がかかるため、海外宝くじの当せん金は原則一時所得として課税対象です。なお、日本国内からネット等で海外宝くじを購入する行為は刑法187条で違法とされている点にも注意してください。
Q. totoのBIGや競馬の払戻金も宝くじと同じで非課税ですか?
A. スポーツくじ(BIG・toto・WINNER)はスポーツ振興投票の実施等に関する法律16条で非課税です。一方、競馬・競輪・ボートレース・オートレースの払戻金には非課税の規定がなく、原則一時所得として課税されます(特別控除50万円を超えると確定申告が必要になる場合があります)。
参考リンク(出典)
※ 数値は2026年8月時点の公表資料にもとづきます。外貨の円換算は1ドル=150円・1ユーロ=180円・1台湾ドル=4.7円の概算です。米国の計算例は税率・控除を単純化した目安であり、実際の税額は個々の状況で変わります。本記事は一般的な情報提供であり、個別のご判断は税務署・税理士など専門家にご確認ください。



