クールジャパン機構が廃止へ|1,880億円の投資と累損540億円の中身

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  • 経済産業省資料(令和8年2月)の投資決定案件一覧をもとに、投資先65社・78件の一覧(事業者名・事業内容・支援決定額・EXIT状況)を分野別に追加。あわせて一覧から読み取れる4点(上位5社で約27%/ファンドへの出資が約23%/対象地域が日本国内の案件/2026年4〜5月の新規4件)と、投資先一覧に関するFAQを追記

最終更新:2026年8月20日/本記事は経済産業省・財務省(財政投融資分科会)・会計検査院の公表資料と、2026年8月20日の報道をもとに作成しています。数値はいずれも出典と時点を明記しました。廃止は現時点で「方針」であり、最終的な結論は今後の議論で決まります。

先に結論から。経済産業省が2026年8月20日、2027年度の概算要求でクールジャパン機構(株式会社海外需要開拓支援機構)に関する要求を見送る方針を固めました。事実上の廃止に向けた調整で、理由として「理解を得られないと判断した」と報じられています。ただしこれは廃止の決定ではありません。統廃合を含む方向性は有識者の検証会で議論され、年末にまとまる見込みです。この記事では、12年間で何にいくら投じ、どれだけ戻ってきたのかを、機構と監督官庁が自ら出した数字で確認します。

まず、規模を押さえる

経済産業省が2026年2月に公表した資料によると、機構の状況は次のとおりです。

1,433億円出資金(政府1,326億円+民間107億円)
1,880億円投資決定額(78件・65社)
34件EXIT(投資回収)済みの案件数
▲540億円累積損益(2026年3月末)

まず押さえたいのは、「官民ファンド」と呼ばれてはいるものの、資金の出し手はほぼ国だという点です。出資金1,433億円のうち政府出資は1,326億円で、比率にして92.5%。民間出資107億円は23社の分を合計した額で、原則1社5億円(地方銀行は例外的に1億円)と決まっています。株主にはANAホールディングス、電通グループ、高島屋、バンダイナムコ、TOPPANデジタル、三越伊勢丹ホールディングスなどが名を連ねています。

設立は2013年11月。株式会社海外需要開拓支援機構法(2013年6月公布)に基づく組織で、設立時の出資は政府300億円・民間85億円でした。そこから追加出資を重ねて現在の規模になっています。

投資先の分野別内訳(2026年2月時点)はこうなっています。

分野件数投資決定額構成比
ライフスタイル24件約684億円36%
メディア・コンテンツ16件約506億円27%
インバウンド16件約319億円17%
17件約199億円11%
分野横断5件約173億円9%

「クールジャパン=アニメ・マンガ」というイメージがありますが、金額でいちばん大きいのはライフスタイル分野で、メディア・コンテンツは2番目です。この構成が、後で見る損失の中身を理解するうえで効いてきます。

1,880億円は、どこへ行ったのか(投資先の一覧)

経済産業省の資料には、公表済みの全案件が一覧で載っています。2026年2月17日時点で65社・78件。分野ごとに、投資先・事業内容・支援決定額・その後の状況を並べます。金額はコミット金額(最大支援額)で、実際の投下額とは一致しません。外貨建ての案件は資料の円換算値を採り、複数回に分けて出資したものは合計額と内訳を書いています。

メディア・コンテンツ(16件/15社)

投資先事業内容支援決定額状況
Tokyo Otaku Modeマンガ・アニメ関連商品の海外向け販売サイト15億円2023.11 EXIT
アニメコンソーシアムジャパン正規版アニメの多言語配信・物販10億円2017.3 EXIT
MCIPホールディングスアジア向けの日本紹介テレビ番組制作・物販10億円2024.11 EXIT
SDI80言語を超える字幕・吹き替えのローカライズ75億円2020.9 EXIT
WAKUWAKU JAPAN日本番組を流す海外向け有料衛星チャンネル44億円2019.9 EXIT
KADOKAWA Contents Academy海外でのクリエイター育成スクール4.5億円2024.4 EXIT
Zeppホールネットワークアジアでの日本仕様のライブホール展開50億円2024.9 EXIT
Dream Vision Companyミャンマーの地上波放送の整備と日本番組の発信17.6億円(16百万ドル)2025.6 EXIT
クールジャパンパーク大阪大阪城公園内の劇場の整備・運営12億円2024.7 EXIT
ジャパンコンテンツファクトリー映像コンテンツ制作を資金面で支えるファンド51.5億円2025.4 EXIT
Tastemade食・観光・地域産品を発信する動画メディア14億円(12.5百万ドル)投資中
ラフ&ピース マザー教育コンテンツの制作・配信プラットフォーム100億円2023.8 EXIT
ワンダープラネット海外向けスマートフォンゲームの開発・運営10億円2024.3 EXIT
Sentai北米での日本アニメのライセンス事業37億円(33億円+4億円)2022.1 EXIT
GoTo(旧Gojek)東南アジア最大級の生活サービスアプリ55億円(50百万ドル)投資中

ライフスタイル(24件/20社)

投資先事業内容支援決定額状況
ICJ Department Storeクアラルンプールの全館日本仕様の百貨店10.7億円2018.7 EXIT
寧波阪急中国・寧波市の大規模商業施設110億円2024.3 EXIT
SAS ENISパリの地域産品のショールーム兼卸拠点1億円2021.2 EXIT
45R日本発ファッションブランドの欧米展開8.2億円2024.12 EXIT
Spiber人工の構造タンパク質を使う次世代繊維素材140億円(30億円+110億円)投資中
Clozette東南アジアのインフルエンサー活用マーケティング11億円投資中
シタテル縫製工場とブランドをつなぐ衣服生産の基盤10億円投資中
M. M. LaFleur日本製の生地を使う米国の女性向けブランド23億円(20億円+3億円)2024.7 EXIT
Stellar Works日本の素材・技術を使う高級家具ブランド44億円(40億円+4億円)投資中
IMCFデザイナーズブランドの育成プラットフォーム13億円2024.5 EXIT
WHILLデザイン性を重視した近距離モビリティの開発・販売15億円投資中
BULK HOMME(バルクオム)男性用スキンケアブランドの海外展開5億円2024.9 EXIT
五常・アンド・カンパニーインド・カンボジアのマイクロファイナンス30億円投資中
Buyandship海外転送・代理購入の物流プラットフォーム22.8億円(15億円+7.8億円)投資中
(事業者名 非公表)ファッション分野の海外展開向けメザニンローン52.4億円2025.10 EXIT
Grover欧州の電子機器サブスクリプション17.3億円(10百万ユーロ)投資中
Funding Asia Group東南アジアの中小企業向けデジタル金融38.8億円(25百万ドル)投資中
Trusty Cars(Carro)アジア太平洋の自動車オンライン取引基盤60億円(40百万ドル)投資中
Coolmate日本の版権商品を扱うベトナム発のアパレル15.5億円(10百万ドル)投資中
Japan Activation Capital Alpha I国内上場企業への投資ファンド54億円投資中

食(17件/15社)

投資先事業内容支援決定額状況
CLKベトナムの日本食材向け冷凍冷蔵物流11.1億円(9.3億円+1.8億円)2026.1 EXIT
Japan Food Townシンガポールの日本食フードコート7.5億円2019.1 EXIT
力の源ホールディングス(一風堂)欧米豪でのラーメンダイニング展開7億円(ほかに融資枠13億円)2019.11 EXIT
GREEN TEA WORLD米国での日本茶カフェ2.6億円2019.9 EXIT
Gulf Japan Food Fund中東向けの食品・農産品輸出を支えるファンド44億円(31百万ドル)投資中
GLOBAL NEXT ATOM日系外食企業向けの食材加工工場3億円2025.4 EXIT
世界市場香港での日本産青果物の直販流通3.66億円2019.9 EXIT
Ichiba UKロンドンの日本食文化の発信拠点5.12億円(3百万ポンド)2025.2 EXIT
GF CAPITAL中小の外食企業のASEAN出店支援5億円2021.7 EXIT
EMW中国での日本酒の卸売・ネット販売27.5億円(22億円+5.5億円)投資中
Winc北米の定期購入型ワイン通販を使った日本酒の販路11億円2023.3 EXIT
Wine Gallery豪州・英国の酒類通販を通じた日本酒の販路9.5億円投資中
SprouTx(旧DAIZ)発芽大豆からつくる植物肉の原料20億円投資中
4P'sベトナム・カンボジアの和洋折衷レストラン15億円(10百万ドル)投資中
JumpStartインドネシアのキャッシュレス対応自動販売機13億円(10百万ドル)投資中

インバウンド(16件/10社)

投資先事業内容支援決定額状況
せとうち観光ファンド瀬戸内地域の観光産業を支えるファンド10億円投資中
百戦錬磨訪日客向けの合法的な民泊の予約サービス3億円2020.4 EXIT
グローバルブレイン観光・インバウンド関連の新興企業を支えるファンド50億円投資中
KKday訪日客向けの現地ツアー・体験の予約39億円(4回に分けて出資)投資中
SUIDEN TERRASSE山形県鶴岡市の観光・農業を軸にした地方創生15億円投資中
Vpon訪日客のモバイルデータを使ったデジタル広告40.2億円(4回に分けて出資)投資中
テーマパーク開発とマーケティング支援80億円投資中
Inside Travel Group英米豪の富裕層向けの日本旅行の企画・販売21.5億円投資中
Atona Impact Fund高級温泉旅館ブランドを展開する不動産ファンド50億円投資中
ecbo荷物預かりのプラットフォーム10億円投資中

分野横断(5件/5社)

投資先事業内容支援決定額状況
500 Startups創業間もない企業の海外展開を支えるファンド11億円投資中
みやこ京大イノベーションファンド医療・先端技術分野の新興企業を支えるファンド10億円投資中
CDIB CROSS BORDER INNOVATION FUND台湾の金融グループと組む日台の新興企業向けファンド30億円(20百万ドル)投資中
Japan Activation Capital II国内上場企業への投資ファンド60億円投資中
Sinarmas-Spiral Japan Thematic Fund東南アジアの新興企業と日系企業をつなぐファンド62億円(40百万ドル)投資中

※状況(EXIT時期)は経済産業省の資料の一覧ページの表記によります。マレーシアの百貨店(ICJ Department Store)だけは、同じ資料の個別ページに「2019年1月にEXIT済」とあり、一覧の2018年7月と表記が分かれています。

一覧から見えてくる4つのこと

1つ目。少数の大型案件に集中しています。金額上位5社を足すと505億円で、投資決定額1,880億円の約27%です。Spiber 140億円、寧波阪急 110億円、ラフ&ピース マザー 100億円、刀 80億円、SDI 75億円。65社に薄く配ったのではなく、上の5社だけで4分の1を超えています。前の章で見た「1社に140億円」は例外ではなく、この機構の投資スタイルそのものでした。

2つ目。事業会社ではなく「ファンド」への出資が多い。一覧のうち11社は投資ファンドや不動産ファンドへの出資で、合計は約433億円、全体の約23%にあたります。ジャパンコンテンツファクトリー51.5億円、グローバルブレイン50億円、Atona Impact Fund 50億円、Sinarmas-Spiral 62億円、Japan Activation Capital 2本で114億円などです。自分で投資先を選ぶのではなく、別のファンドに資金を預けて運用してもらう形が、金額の4分の1近くを占めていました。とくに2024年以降の新規案件はファンドへの出資が目立ちます。

3つ目。対象地域が「日本国内」の案件が10社・約344億円(全体の約18%)あります。訪日インバウンド需要の獲得を狙う投資はこの分類になるため、名称と矛盾するわけではありません。ただし国内上場企業への投資ファンド2本(Japan Activation Capital I・II、計114億円)については、資料の概要欄が「国内上場企業への投資を通じて長期的かつ持続的な成長と企業価値創造を支援する事業」とだけ書かれており、海外需要の開拓との関係は記されていません。

4つ目。廃止方針が報じられる直前まで、新規投資は続いていました。上の一覧は2026年2月17日時点のものですが、機構のサイトにはその後も4件の支援決定が公表されています。

投資先事業内容公表日
Polisea(PolicyStreet)東南アジアのオンライン保険販売2026年4月1日
クールジャパン-SBIコンテンツ投資事業有限責任組合国内のエンタメ系スタートアップに投資するファンド2026年4月17日
Brave groupバーチャルタレントのプロデュースと版権事業2026年4月22日
KONVYタイでの美容・健康商品のオンライン販売2026年5月12日

経済産業省が2027年度の概算要求を見送る方針を固めたのは2026年8月20日ですから、その3か月前まで新しい支援を決めていたことになります。これ自体は投資期間が2028年度までと定められている以上おかしな話ではありませんが、廃止の議論と現場の投資判断が別々に進んでいたことは押さえておく価値があります。前の章で触れたとおり、機構には2034年3月31日までに保有株式等を処分する努力義務があり、いま決めた投資も最終的にはその期限の中で売り切る必要があります。

累積損失540億円は、何で減ったのか

累積損益の推移を並べると、悪化と改善の波がはっきり見えます。

時点累積損益(実績)計画上の目標
2024年3月末▲398億円▲407億円
2025年3月末▲383億円▲432億円
2026年3月末▲540億円▲426億円

2024年度は当期純利益約15億円で単年度黒字を達成し、累積損益も計画を上回って改善しました。ところが2025年度は収益44億円に対して当期純損失156億円を計上し、累積損失は一気に540億円へ膨らんで、目標を114億円下回りました

ここが厳しく見るべきポイントです。経済産業省は2026年2月の資料で「2024年度に累積損益の底を打ち、2025年度から投資回収が本格化する見込み」と説明していました。その翌月にあたる2026年3月に、後述する大型案件が私的整理に入り、過去最大の損失が出ています。底を打ったという見通しは、公表から1か月で崩れたことになります。

もうひとつ、損失の性質を分けて見る必要があります。2025年3月末時点の累積損益▲383億円について、機構は内訳をこう説明しています。

内訳金額中身
ファンド運営の必要経費▲238億円人件費101億円/租税公課55億円/調査研究費25億円/地代家賃・水道光熱費等23億円
投資中案件の含み損の先行計上▲110億円会計ルール上の減損処理。海外の政治リスクや上場株の評価減など
EXIT等による投資損益▲35億円実際に売却・回収した結果の損益

つまり累積損失の約6割は、投資の失敗ではなく組織の運営コストです。設立から12年で人件費101億円、年平均にすると約8.4億円。必要経費全体では年平均約20億円が出ていっています。

税金の観点で目を引くのが租税公課55億円です。国の資金でつくられた会社が、12年間で55億円の税金を納めている計算になります。2024年度は法人事業税の外形標準課税が約6.4億円、投資収益に対する外国での課税が3.5億円あり、総額10億円を超えました。法人事業税の外形標準課税は、資本金1億円超の法人に対し所得ではなく資本金や付加価値に応じてかかるため、累積赤字を抱えた状態でも支払いが発生し続けます。国の出資金の一部が、税として国や自治体に戻っていく構造です。

回収率を分解すると、看板分野ほど負けている

ここからが「実績を厳しく見る」の本題です。機構はEXIT済み案件の平均回収率を、分野別・年度別に公表しています(2025年3月末時点・EXIT29件)。1.00倍が元本回収の分岐点です。

EXIT案件の分野平均回収率件数
ライフスタイル、その他1.10倍9件
0.87倍8件
メディア・コンテンツ0.74倍12件

元本を回収できたのは「ライフスタイル、その他」だけで、クールジャパンの看板であるメディア・コンテンツが0.74倍と最も悪いという結果です。機構自身も「事業分野別ではコンテンツの海外展開プラットフォーム事業による回収額は▲72億円」と明記しています。日本の強みとされてきた分野に投じた資金が、いちばん戻ってきていません。

支援決定した年度で切ると、別の傾向が出ます。

支援決定年度平均回収率件数
2013〜2015年0.90倍12件
2016〜2018年1.32倍9件
2019〜2021年0.30倍8件

設立直後の2013〜2015年が0.90倍、次の3年が1.32倍と持ち直した後、2019〜2021年に決定した8件は0.30倍。投じた額の7割が戻っていません。この時期は新型コロナの直撃を受けているため機構だけの責任とは言えませんが、外部環境の悪化に対して投資判断が追いつかなかった期間があったことは数字に表れています。なお2015年に支援決定された案件からの回収額は▲73億円で、単年で見ると最も傷が深い年です。

金額規模別では、10億円以下の小口16件が0.76倍、10億〜40億円の9件が0.55倍、40億〜150億円の4件が1.10倍。中規模の案件がいちばん成績が悪いという、直感に反する分布になっています。

EXIT済み案件を合計すると、486億円を投じて427億円の回収、差引▲59億円(回収率0.88倍)。ここにLP出資先からの配当等の収入+24億円が加わります。

効いた一撃:次世代繊維への140億円

2025年度に累積損失を157億円押し広げた主因は、次世代繊維素材のスタートアップ(Spiber)への出資です。経済産業省の資料によると、機構は2018年11月に30億円、2021年9月に追加で110億円、合計140億円の支援を決定していました。単独案件としては極めて大きな比重です。

この投資先は、コロナ禍と円安による原材料高で事業環境が悪化し、2025年12月に債務の問題が表面化、2026年3月に私的整理に入りました。事業譲渡の価格が低くとどまったことで、機構の損失が確定的に拡大しています。

ここで先ほどの分野別の内訳を思い出してください。金額最大のライフスタイル分野(684億円)の中に、この140億円が含まれています。「クールジャパン」という言葉から連想されるアニメや食ではなく、繊維素材のベンチャーが最大の打撃になったという点は、この機構の性格を考えるうえで重要です。政策の看板と、実際に資金が向かった先は、必ずしも一致していませんでした。

誤解のないように書いておくと、投資先の企業が事業に失敗したこと自体を非難する趣旨ではありません。リスクマネーの供給を目的とするファンドで個別案件が失敗するのは想定内です。問題として検証されるべきなのは、1,433億円の出資金に対して単独で140億円、約1割を1社に集中させた判断が、分散投資の方針と整合していたかという点です。機構の支援基準にも「目的の範囲内における適切な分散投資」が努力事項として明記されています。

機構自身が書き残した、失敗の総括

個別案件の失敗要因について、経済産業省の資料には率直な記述があります。クアラルンプールの百貨店事業(支援決定額10.7億円、2014年9月公表、2019年1月にEXIT)についての総括です。

「日本食などの発信に一定の評価を得たものの、価格帯や品揃えが現地ニーズに合致しなかったため売上にはつながらず(中略)本件においては、日本の地域や中小企業の優れた商品の魅力発信や販路開拓という政策的意義を重視するあまり、地域の市場に精通した現地パートナーとの協業無く、日本企業がゼロから事業を立ち上げた結果、現地ニーズの取り込みが不十分であったという課題が顕在化。」

経済産業省「株式会社海外需要開拓支援機構について」(令和8年2月)

「政策的意義を重視するあまり」という一文は、官民ファンドという仕組みが抱える構造的な難しさを言い当てています。政策目的と収益性のどちらを優先するかで判断が揺れると、結果的にどちらも達成できない。これは特定の担当者の失敗ではなく、制度設計の問題として読むべき記述です。

会計検査院も2025年5月の報告書で厳しい指摘をしています。修正後計画の最終年度である2033年度の累積損益の見込みが10億円の黒字にとどまるのに対し、設置期限までの産業投資に係る資本コスト相当額は約150億円。つまり計画どおりに進んでも、国が資金を出したコストに見合うリターンには140億円届かない計算だという指摘です。

公平に見るために:機構の側の数字

損失の話だけで終わらせると評価を誤るので、機構が成果として挙げている指標も並べます。

  • 民間資金の呼び水効果は2.1倍(2025年3月末実績)。2029年3月末のマイルストーン1.7倍、2034年3月の目標1.7倍をすでに上回っています。民間企業からの協調投融資額は累計で約3,868億円にのぼります。
  • 政策目的のKPIは達成。投資先のサービスを活用した企業数は7,827社で、2029年3月末のマイルストーン7,037社を超えています。ビジネスマッチングを行った企業数も139社で、目標を上回りました。
  • 2024年度は当期純利益約15億円で単年度黒字。累積の投資損益も前年度の▲86億円から▲35億円へ改善しました。
  • 必要経費238億円の位置づけについて、機構は「民間ファンドでは、必要な管理コストは、一般的に2%程度の管理報酬等によって投資損益とは別途確保している」と説明しています。民間ファンドなら投資家が別途負担する運営費を、機構は損益の中に取り込んで開示しているという主張です。
  • 経費削減にも取り組んでおり、2021年度にオフィス面積を4割縮小、サーバーのクラウド化による通信費削減、外部委託の調査項目の絞り込みなどを実施しています。

この2.1倍という数字をどう読むかは分かれます。民間資金を3,868億円動かした事実は政策効果として評価できる一方、呼び水になったかどうかと、投じた国の資金が戻るかどうかは別の問題です。会計検査院が問うたのも後者でした。

これは「税金」なのか

この手のニュースでは「税金が540億円溶けた」という言い方をよく見かけますが、正確ではないので整理します。

政府出資1,326億円の出どころは財政投融資特別会計投資勘定の産業投資(産投)です。この勘定の主な歳入は、国が保有するNTT株・JT株の配当金や、国際協力銀行からの国庫納付金などで、一般会計の税収を直接投入しているわけではありません。所得税や消費税がそのまま入っているわけではない、という点は押さえておく必要があります。

ただし、だから痛まないという話にもなりません。産業投資の原資は国が持つ資産から生まれる収益であり、本来なら別の政策に使えたか、一般会計へ繰り入れて国民負担を軽くできたはずのお金です。会計検査院が「資本コスト相当額」という物差しを持ち出したのは、まさにこの機会費用を測るためでした。国民負担率の議論と地続きの問題として見るのが妥当です。

もう一点。すでに触れたとおり、機構は12年間で租税公課55億円を負担しています。国の資金でつくった会社が法人事業税などを納め、その分だけ出資金が目減りする。制度としては当然の帰結ですが、資金の流れとしては迂遠です。

廃止すると、何が起きるのか

今回見送られたのは2027年度の概算要求(財政投融資計画の要求を含む)で、機構が今日ただちに消えるわけではありません。押さえておくべき事実を整理します。

  • そもそも期限つきの組織:機構法に基づく設置期限は20年間(2013年度〜2033年度)で、投資の終期は2028年度と決まっていました。さらに機構法第26条第2項により、2034年3月31日までに保有するすべての株式等の処分に努める義務があります。廃止論とは無関係に、出口へ向かうスケジュールはもともと存在していました。
  • 投資中の案件が残っている:2025年3月末時点で投資中は43件・882億円。これらを売り切るまで機構の役割は終わりません。2024年度末時点で、支援決定時の想定よりEXITが後ろ倒しになっている案件が9件あります。
  • 早期の廃止は回収を減らす可能性:報道では「廃止すれば、国が拠出した資金の一部が回収できなくなる可能性がある」と指摘されています。売却を急げば足元を見られ、待てば運営経費が積み上がる。どちらにも損が出る構図です。
  • 決定はまだ先:統廃合を含む方向性は有識者による検証会で議論され、年末にまとまる見込みです。首相官邸も廃止を容認する考えと報じられていますが、正式な結論はこれからです。

「損失が出たから即座に畳む」が最善とは限らないのが、この問題の厄介なところです。撤退のコストと、続けるコストを比べる作業が、年末までの検証会に求められています。

今日やること

  1. 財務省の財政投融資分科会のページで、官民ファンドの「投資計画等の進捗状況」の資料を1本開いてみる。累積損益・回収率・経費の内訳まで、この記事で引用した数字はすべて公開資料に載っている。
  2. 会計検査院の検査報告の検索ページで「官民ファンド」を引き、関心のある機関の指摘事項を読む。他の官民ファンドの状況も同じ枠組みで比較できる。
  3. 自分の負担している税や社会保険料の内訳を確認したい場合は、計算ツール(詳細版)で試算しておく。国の資金の使途を追うのと、自分の手取りを守るのは別の作業。

手取りを増やす具体策は手取りアップ・アクションリストにまとめています。

よくある質問

クールジャパン機構の廃止は決まったのですか。

決まっていません。2026年8月20日に経済産業省が2027年度の概算要求を見送る方針を固めたと報じられた段階で、廃止の方向で調整に入ったとされています。統廃合を含む方向性は有識者の検証会で議論され、年末にまとまる見込みです。

累積損失540億円は私たちの税金ですか。

直接の税収ではありません。政府出資1,326億円の原資は財政投融資特別会計投資勘定の産業投資で、国が保有するNTT株・JT株の配当金などが主な歳入です。ただし国の資産から生まれた収益であることに変わりはなく、他の政策や国民負担の軽減に使えたはずのお金という意味で、無関係ではありません。

損失はアニメやマンガへの投資で出たのですか。

2025年度に損失を大きく広げたのは、次世代繊維素材のスタートアップへの140億円の出資です。ただしEXIT済み案件の平均回収率を分野別に見ると、メディア・コンテンツが0.74倍で最も低く、コンテンツの海外展開プラットフォーム事業の回収額は▲72億円でした。単発の大型案件と、看板分野の継続的な不振の両方があったことになります。

投資先の一覧はどこで見られますか。

経済産業省の資料「株式会社海外需要開拓支援機構について」に、公表済みの全案件(2026年2月17日時点で65社・78件)が事業者名・支援決定額・事業概要・EXIT状況つきで載っています。この記事でも分野別に転記しました。それ以降に決まった案件は、機構の「投資中の案件一覧」で確認できます。なお1件だけ事業者名が非公表の案件(52.4億円のメザニンローン)があります。

機構に成果はまったく無かったのですか。

そうとは言えません。機構の出資を呼び水にした民間資金の誘発倍率は2.1倍で目標を上回り、民間からの協調投融資額は累計約3,868億円にのぼります。投資先のサービスを活用した企業数などの政策KPIも目標を超えました。2024年度は当期純利益約15億円で単年度黒字も達成しています。評価が割れているのは、政策効果が出た一方で、国が出した資金が資本コストに見合う形で戻る見通しが立たない点です。

廃止されると、投資中の案件はどうなりますか。

2025年3月末時点で投資中は43件・882億円あり、売却が終わるまで処理は続きます。機構法では2034年3月31日までに保有株式等の処分に努めることとされており、もともと期限つきの組織です。売却を急ぐと回収額が下がり、時間をかけると運営経費が積み上がるため、報道でも「国が拠出した資金の一部が回収できなくなる可能性」が指摘されています。

参考リンク

本記事は公表資料と報道に基づく一般的な情報提供であり、特定の企業・団体・個人の評価を目的とするものではありません。廃止の可否を含め状況は流動的で、今後の検証会の議論により内容が変わる可能性があります。最新の情報は各府省庁の公表資料でご確認ください。

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最終更新:2026年08月28日 / 公開日:2026年08月20日 / 執筆:みんなの税金 編集部

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